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京華日記
生ライブはやめられない
2005年12月14日

 

 突然「京華先生ですか? 先日は新潟でありがとうございました。」と
電話が、かかってきた。男の人の声だ。

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」と私、
「こまつ座の小沢です。先日新潟の居酒屋で、隣のカウンターに居たものですが、
ご記憶にありませんか?」 あーそう言えば、と思い出しながら、
「あー あの時の… どうされましたか? よく電話番号が解りましたね。」と私
「あの時、名刺を頂けますか?って言ったら、下さったじゃないですか。覚えて
ないですか?」 
「あーそうでしたね。」と言ったものの、何かよく思い出せません。
「今、能登の七尾という所に居るのですが、今日から三日間、公演があるんです。
あの時 京華先生が、金沢で劇団の公演があったら、娘さんと見に行くから、
と言って下さったので、電話してみたんですけど、七尾は遠いですか?」
「七尾はちょっと無理ですね。金沢は来られないんですか?」と私
「今回は三日間七尾で、次は松江なんですよ。残念ですね。でも、声が聞けて
良かったです。あれから、京華先生のファンになりましたから、と言っても
うちの奥さんに着物を買ってやる余裕ないですけど、いつか先生の加賀友禅を着せて
あげられたら良いなぁと思っています。新潟では、生ライブのお話、とても感激
しました。ぼくも頑張りますから、先生も頑張って下さいね。
京都の先生にも名刺を頂いたんですが、もし、お会いすることがあったら、宜しく
お伝え下さい。」と言って電話は切れました。

 そう言えばあったなぁ……。そんなことが……。生ライブの話し?

少しづつ記憶が甦って きました。そんな話しをしてたなぁ……。

 あの時、一緒だった京都の先生やアドバイザーの先生と、けっこう盛り上がって
つい、お酒をたくさん飲んでしまいました。翌日 目が腫れてしまうと言う事も忘れて
はしゃいでいたような気がします。

 久し振りの出張でした。新潟の新発田と言う所で小売り屋さんの催示に呼ばれ行きました。
四泊五日の長い出張と言う事もあって、帰ってから、なかなか疲れがとれず、
「もう出張なんか行きたくない!」と、早く新潟のことは忘れ、仕事の体制に戻らなければ
と思っていました。それで新潟での事はすっかり忘れていました。
 
 思えば色々な出会いがありました。嬉しい再会もありました。
仕事を終え皆で飲んだお酒が美味しくて、楽しくて、おまけに京都で郷野紬をつくっている
先生と同じ催示場だったのですが、とても気さくで面白い方だったのです。

 それに、私の作品を見て とても気にいられた様でした。
「今まで何人かの加賀の先生と一緒に仕事をさせてもろうたけど、どの先生の作品も
同じように見えて、加賀友禅言うのは、あまり変わりばえのしないものと思うとったんや。
でも、京華先生の作品はええなぁ、やっぱ女の先生や、やさしいもん、色もええし
それに、ものすごー 手が混んでますやん。こんなんつくるの大変やろ?
うちら ようまねできんで。」なんて言って下さいました。
そして「京華先生の着物は ほんまもんや、こんなん一枚持ってはったら家宝になるで。」
とお客様にもアピールして下さいました。
京都の方は、口がお上手 と思いながらも、とても嬉しく気分が良かったのです。

 居酒屋では「いろいろ、バックアップして下さってありがとうございました。」など
お礼を言いながら、飲んでいました。
すると隣のカウンターで、飲んでいた人が「何か着物関係のお仕事をされているのですか?」
と話しかけてきました。きっと私達の会話が耳に入ったんだと思います。
「まぁ そんなかんじですね。」と私が曖昧に答えると
京都の先生が「おたく、どこから来はったん?」曖「東京です。小沢といいます。」
「東京から仕事で?」と聞くと、「こまつ座っていう劇団御存じですか? 僕はその劇団に
いるのですが、今日 新潟で公演があったんです。」とのことでした。

 劇団の人なんて珍しかったので、いろいろお芝居のことなど聞いていました。
そして今度は、その人から「皆さん京都ですか?」と聞かれると、京都の先生が
「僕は京都ですけど、この方は金沢で加賀友禅をしている作家の先生です。」と
紹介されました。更に「この方は、素晴らしい作品をつくっておられる女流作家さんですよ」
なんて言うもんですから 「へぇー 加賀友禅の作家さんってどんな事をしているのですか?」
と聞かれました。「小沢さんと同じようなものです。」と私が答えると
「えっ?同じって?」と驚いたように聞き返してきました。

「以前テレビで、舞台役者の人が言っていたんです。舞台に立ったら失敗はできないんです。
テレビや映画のように良い所だけをカットして繋いでいるのと違って、本番で最高の
演技をして、観客に喜びと感動を提供しなくてはいけない仕事なのです。下手な芝居は
お客様にすぐ解ってしまいます。そして、諸に反応が伝わってきます。だから、本番は凄い
緊張します。毎日厳しい練習を重ね、収入もあまりないので、アルバイトをしながら
レッスンに来ているひともたくさんいます。

でも終わった後、お客様の拍手が、全ての苦労を忘れさせてくれますし、
このために芝居をしているんだと実感しますね。
そして、この拍手を味わった時から舞台は辞められなくなるんです。と言う話を聞いて
私の仕事も同じだなぁと思ったんですよ。」

「それはどう言う事ですか?」と小沢さん、私は
「私の仕事も生地に描いてしまったら、失敗はできないんです。だから細心の気配りをして
取り掛かるんです。すごい緊張しますよ。でもその緊張が好きなんです。
とくに、お客様のお誂えの仕事は生ライブのようなものです。仕上がりを見るまでは
ドキドキします。でも、イメージ通りの ものができ、お客様に とても喜んで感動して頂く
事が出来た時、この仕事をしていて良かったと思うんです。やっぱり、生ライブの緊張と
諸に来る反応がたまらなくて、辞められないと言うのは一緒ですよ。」などと、
あの居酒屋で話していたのを思い出しました。
前にも、こんな話しを 誰かとしていた事があった様な気がします。
小沢さんも同じ気持ちだったのでしょう。「何か、よーく解ります。今日は楽しいなぁ。
もう一度、皆で乾杯しましょう。」

 そしてお開きにしました。 新潟での出張 最後の夜の出来事でした。

 次回は、出張初日にあった嬉しい再会のお話しも、したいと思います。
是非読んで下さい。宜しくお願い致します。