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京華日記
最後のプレゼント
2005年12月14日

 

防寒用のブーツは、もう片付けようと思い、物置きの靴箱を開けました。

靴の箱がいっぱいある。父と次女と私、三人しかいなくなってしまった家族にしては
靴の箱が多すぎる。不用な靴は捨てようと思い、中を開けてみた。

 母が元気だった頃、履いていた外出用の靴だった。別の箱を開けてみた。
母が着物を着た時に履いていた草履だった。何だか懐かしくなり、次々と箱を開けてみた。
「あっ!」一瞬 私の手が止まった。
「これ…」底はかなり減っている。普通だったら、とっくに捨てていた筈のサンダルが
大切に箱に入れてしまってありました。 「お母さん…」胸が詰まりました。

 中学一年生になったばかりの頃、通学用の靴と、内履き外履きのズックを買いに、
母と靴屋さんに行きました。その時、母が「このサンダル いいねえ。」と言って
目についたサンダルを履いてみました。「それ素敵だねえ、買ったら?」と私が言うと
「あんたのもの揃えるだけでお金がかかるから、そんな余裕ない いらない!」と言って
帰りました。最初は「ふん」と思っていました。
夜になって、明日持って行くものを準備しながら、買って貰ったズックを見ていました。
 急に、さっきのサンダル 本当は、お母さん欲しかったに違いない、でも 私の事で
お金が掛かるから、我慢したんだ! と思い、申し訳ない気持ちになりました。

 そうだ! 中学生になるんだし、学校が終わったら、バイトをしよう!
そして、母の日に あのサンダルをプレゼントしようと思い付いたのです。

次の日、靴屋さんに 母の日まで、そのサンダルをとっておいてほしいと頼み、早速
学校の帰りに、バイトを探しに行きました。 丁度、近くの八百屋さんに アルバイト募集の
はり紙がしてありました。学校が終わったらすぐに来ると言う事で、採用してもらう事に
なりました。

 母には、部活をするからと言って、毎日学校が終わるとバイトに行きました。
ところが、三・四日ほど経ったある日、家に帰ると母がすごい怖い顔をして私を睨んでいました。
「あんた 毎日遅くまで、何しとるんや!」と言うのです。
「部活で遅くなると言ったやろ!」と言うと 「嘘をつくんじゃないよ!」
「学校の近くの八百屋で、あんたが働いているのを見た人がいるんよ!」
まずい! と思いましたが、母の怒りは、とどまらず「この嘘つき!」と私を叱りつけました。
「何でそんな事しているんや?」と母、「だって、お金がいるんだもん」と言うと
今度は、情けない表情で「あんたに、何か不自由させた事ある? そりゃ余る程お金がある
訳じゃないけど、食べるものにしても、持たすものにしても、人並みにしてきたつもり
やったのに」そして「何が不満で、中学生がアルバイトをせんといかんのよ!そんな暇が
あったら勉強すればいいやろ!」と言ったきり、次の日の朝になっても、口をきいて
くれませんでした。

 かまうもんか! と思い、その日も学校の帰りにバイトに行くと、八百屋の奥さんが、
「きょう、近藤さんのお母さんが来られて、何度も謝りながら、バイトは辞めさせて下さい
と頼んでいかれましたよ。お菓子箱まで貰って、かえって申し訳なかったね。近藤さん、
お母さんの許可もらってなかったの?」と言われました。そして、今まで働いた分の代金を
頂き、家に帰りました。
 あー、これじゃ足りないよ!バイト代が入った封筒の中を見てがっかりしました。

 あのサンダルは買えない!そう思うと、だんだん腹が立ってきました。
そして母に「なんで勝手にバイトを辞めさせたんや! 私の決めたことに口出しせんといて!」
と文句を言いました。「何でそんなにお金がいるんや?」と 母も、しつこく聞くので、
とうとう言ってしまいました。「だって、あのサンダル 母の日にプレゼントしたかったもん」
と言うと「……あんたの、その気持ちは嬉しいけど、それよりお母さんは、もっと勉強とか
部活とか頑張ってくれた方が、よっぽど嬉しいよ」と言いながら、目が潤んでいました。
「これでサンダルは買えないけど、何か買えるもの買って」とバイト代を封筒ごと渡しました。

 母の日になりました。
「どうこれ?」と母が例のサンダルを私に見せました。
「どうしたん?」と私、「足りない分は、お母さんが自分で出したけど、これは、あんたが
買ってくれたサンダルだから、大切に履かせてもらうよ」と嬉しそうに父にも見せていました。

 あの時のサンダル、まだ捨てないで持っていたんだ……

 色も褪せ、底のすり減った古いサンダルをまた大切に箱にしまいました。
もうしばらく、靴箱はこのままにしておこうと思います。
防寒用のブーツだけ片付けて物置きを出ました。


 母の日か…… 今では、私が母として娘達に母の日のプレゼントを貰っています。
今年は久しぶりに、私の母へ 旅立ってしまったけれど、私の大切な母へプレゼントしよう。
そう思ったのです。

春の展示会 最後の柄に取りかかっています。
タイトルは『母へ』 そして、カーネーションの柄です。

 でも、カーネーションという素材をそのまま使うのは、違和感があります。
やっぱり加賀友禅です。デザイン化しました。一見、幾何学風にも見えますが、葉っぱの
くっると巻いた感じをイメージして、唐草風カーネーションデザイン模様といったところで
しょうか。色は、紫をベースにした、グレーの濃淡で、モノトーンタッチにしました。
 母が好きな色です。 売れる売れないはどうでもいいのです。
私が母に 心を込めて送る 最後のプレゼントだから……。