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京華日記
経 緯
2004年12月14日

 

お影様で左手首の怪我もすっかり治り、登山の余韻も薄れかけて来ました。
気がつけば秋です。
月日の流れとは、本当にはやいものですね。

今年の始めに、ある決心をしていた事が、つい昨日の事のように思われます。
それは、もっと良いものを、人が喜び、感動するような作品をつくろう。
いやちがう。それは結果として、そうなれば良いと言う事で、本当はそんな事は、
考えていなかった。自分らしい仕事がしたい。思いきり自己表現がしたい。
自由で、誰に何を言われても、これが私ですと、言えるものをつくりたい、そう
考えていました。ところが、気持ちが熱くなればなる程、おもうように描けず、
私は、いったい何なの?という壁にぶつかっていました。
そして、菜の花を見つけた事、このレターを書いてみた事、更には、作品鑑賞会と称して
個展をしようとしている事、年頭には考えてもいない展開に、なってきました。
時が流れている事を実感しています。

 思えば去年があるから、今年の決心があり、現在の展開があるのです。
去年があるから?
そう、去年の今頃はと言えば、私の心境は、複雑でした。
これでいいんだ、という気持ち、でもこれからどうする?という不安、それらが
入り雑じり、これから何をつくったらいいのだろう?と、試行錯誤していました。

事の起こりは、一昨年の夏でした。
ある展示会がきっかけで、ある人との出会いがありました。

その人は、呉服の卸し業を営んでいる人で、この時代、どこの呉服屋も、衰退していく中、
どんどん着物を売り、売り上げを伸ばしている人でした。
そして、全国制覇を目指しているとおしゃっていました。
そんな方から「いっしょに仕事をしませんか?」という、お誘いを受けました。
「加賀友禅も大好きで、是非、近藤先生につくって頂きたい。」との事でした。
正直、戸惑いましたが、問屋さんとの兼ね合いも考えながら、お引き受けする事に
しました。
 最初に依頼された、訪問着を、緊張しながらも、精魂込めてつくらせて頂きました。
きっと、私の中で、「やっぱり、加賀友禅はすばらしい。」
「とても良い色、良い柄になりましたね。」なんて言われる事を、
期待していたのだと思います。(お恥ずかしい)
 ところが納品後、何の反応もないので、気に入らなかったのかと心配になり、
思いきって、電話をかけてみました。
「あのー、訪問着どうでしたでしようか?」と私、
「良かったですよ。」と、ひとこと、そして
「次は、私の選んだ紬の生地に描いてほしいので、生地を送ります。」
それだけでした。
 それから数日後、近江紬という生地が送られてきました。
初めて扱う紬だったので、特徴や扱い方を、専門家に教えてもらい、今度こそ
向こうから「良いものができましたね。」と言われるように頑張ろう、と思い
また、緊張しながら、八反の紬を完成させました。
 納品後、やはり何の連絡もありません。また思いきって、電話をしました。
「あのー、届きましたでしようか?」と私、「はい、届きました。」

「それで、どうでしたでしょうか? 地色もあれで良かったでしょうか?」と
恐る恐る聞きました。でも、地色には自信がありました。金沢でも一流と言われる
染め職人の方々と、何度も打ち合わせをして決めました。
仕上がりは上々、とても深い色でした。渋さの中に艶のある、いい色になりました。
そしてどこにもない、オリジナルの柄です。
たまたま、居合わせた問屋の人に見せると、「良いものができたねー。」
「これ、絶対売れると思うよ。うちにも、こんなの描いて!」と
絶賛でした。自分でも「よし!」と思っていたのに、先方は、「いいと思いますよ。
手ごたえはありましたから。」とそれだけ、
 それから更に数日後、今度は向こうから電話が入り、「この前の紬の柄、
また同じものができますか?」と聞いてきました。「追加と言う事で、また
創って欲しいのですが?」との事。
「売れたんですか?」と私、すると「私が売ったんですよ。」とおしゃるのです。
「わかりました。」と言いながら、電話を切りました。
なぜか急に悲しくなりました。
代金も高額でしたが、ちゃんと振り込んで頂きました。でも嬉しくないのです。
追加をつくってほしいと言われても、楽しくないのです。
ちがう! 何か間違っている! 
これは、私がする仕事ではなかったのかもしれないと思いました。

 そんなある日、知人と久しぶりに食事に行きました。
「これおいしいよね!」「うん、おいしいね。」と言いながら食べていると、
彼女が、こんな事を言うのです。

 「うちのダンナて、何をつくっても自分から、おいしいと言わないのよ。
私がどう? おいしい? て聞くと、うまいよ。と言うだけ、
だから何をつくっても張り合いがないから、だんだん手抜き料理になってきちゃった。」
と言っていました。そして
「でも男の人って、けっこうそんな人いるみたい。」
と納得しているみたいでした。
「へえーそうなんだ。」と言いながら、うちは主人はもちろん、みんなおいしい時は
「おいしい!これまたつくって」とか「今日はお酒はやめようと思ったのに、
こんなうまいものがあるなら、やっぱり飲もう」とか言って
ワイワイ話がはずんでいたことを思い出していました。

仕事でもそうでした。問屋の人達は、思ったことはストレートに言います。
良いにつけ、悪いにつけ、必ずコメントが返ってきました。
私のお客様もそうでした。「想像していたのよりずっと良いのになっている。」
とか「うれしい、こんな素敵なんになったんや。」とか「ありがとう大切に着させて
もらうね。」などという言葉を頂いていました。
それが私にとって一番の報酬でした。そんな恵まれた環境にいたので、
今回の反応がきっと、理解できなかったんだと気付きました。
せっかくの良い収入源だった仕事ですが、全てお断りしました。
やっぱり楽しくない仕事はしたくない。迷ったあげくの決断でした。
それが、去年の秋でした。

そういう、いきさつで、私の仕事に対する考えが、少し変わって来ました。

楽しくない仕事はしたくないなんて、本当はとても我が儘だと思います。
でもこんな気持ちで仕事をしていても、良いものはつくれないと思ったのです。
生前主人は「職人は手を汚すな」とか「お金の採算を合わす為に、いい加減な
仕事をしていると、結局自滅することになる」そして「楽しくない仕事は結局
誰も喜ばすことができない」とも言っていました。主人の言う通りだとその時
思いました。

 あれから一年経った今、私を今まで支えてくれたお客様全てに感謝せずには
いられません。そして、これからも良き支援者になって頂きたいという思いから
十二月の個展には楽しい作品を御披露できるように頑張っています。

 夏、畑をしている知人から、えんどう豆をたくさん頂きました。
それで、えんどう豆の柄ができました。民芸風でちょっとおしゃれな感じです。
お食事会、同窓会、コンサートやお芝居観賞、そしてパーティーにも気軽に着て
行けるようにという思いで、面白いものになりました。
 工房のスタッフ達とも「楽しみですね。」と言いながら個展という一つの目的を
共有しながら仕事ができることの幸せに感謝しています。
 
 今回は、長い文章になってしまい申し訳ありません。でも最後まで読んで頂き
ありがとうございました。